※いつもどおり、を心がけます。
ブルーラインの新横浜駅を降り、横浜アリーナへ向かう道すがら、私は5年前の9月3日のことを思い出していた。
あの日は黄色いポロシャツに黄色いパンプスに黄色いネイルで、黄色のメッセンジャーバッグを持ってバイトに行った。
普段より早めに上がらせてもらって最寄りのマックで昼食をとっている最中、古い曲もやるのかな、と感謝カンゲキ雨嵐を聞いたことをよく覚えている。
同行の友人にそれをメールで伝えてみたら、それはやらないんじゃないかな、と返事が来たことも。
総武線に乗ってみると、同じ車両の中に国立競技場へ向かう女性がたくさんいた。
新宿でどっと増えた彼女たちと千駄ヶ谷駅で降りる。千駄ヶ谷なんか、友達のお父さんにスケートリンクに連れて行ってもらった記憶くらいしかなくて、今この電車に何百人も降りる人がいるのにあんな狭い駅で人をさばけるのか、と通路を歩きながら思った。
横一列になった自動改札機はあっという間にファンを駅の外へ吐き出していた。友人とはすぐに合流出来た。
「すごい、こんなに沢山の人有明くらいでしか見たことないよ」
私の第一声は確かそんなような言葉だったように思う。もちろんコミックマーケットの方が動員は多いことくらい解っていたけれど、それでもあの道路沿いにこんなに人がいるのをはじめて見た。
カラフルなツナギだったり、チュールスカートだったり、ドレスだったり、制服だったり、思い思いの参戦服に身を包んだファンはみな笑顔を浮かべていて、それまで私の行っていた現場というと、今日は何回回るかだとか、最前取っておくからすぐに来てねだとか、他のファンの悪口だとか、そういう会話ばかりで、ただ純粋に目の前のものを楽しみにしているといった表情は、当時の私にとってかなり衝撃的だった。
この先、この青山門の先にいる5人は、今までどんな世界を人々に見せてきたのだろう。私に、どんな世界を見せてくれるのだろう。
背筋がぞっとした。人生が変わる予感しかしなかった。これからどうなってしまうのか、立ち止まって考える時間の余裕は、もう無かった。
あれから5年が経った。
横浜アリーナの周辺にはファンの姿は余り無く、みな入場してしまったのだろうと友人が言った。
既に開演まで15分まで迫っており、慌ただしく駆け込む浴衣の2人組、ヘアメイクをバッチリ決めた女性が会場の中へ吸い込まれて行く。
顔写真認証はドームの時より緩かった。手荷物検査も無かった。おそらく、ドームと違って会場が狭いから不審者がいたとしても引っ張ることが出来るのだろう。それが例え違う人物の情報でも、どこの席にどの顔が入ったかは掴んでいる。
拍子抜けするくらいあっさりと入場して、席へ着く。ありえない程近い席だった。
ドームのコンサートにだってもうそれなりに足を運んでいるけれど、今までで一番ステージに近い。そこで早くも言葉を失った。
昼の部にて、嵐コールが無かったと本人たちがボヤいていたというレポを見たから、コールが始まったらすぐにそれに参加した。
けれど、なかなか声が出ない。すぐそこに嵐が来ると思うと、喉が掠れてしまった。
何度か咳き込みながら柵を握りしめる。客電が落ちて、赤色に設定していたペンライトが消灯する。
会場中が歓声で湧く。私たちは静かに息を呑む。
これは私が嵐に対してハードルが低いのか、それとも全てを受け入れているのか、どちらか判断はつかないけれど、とにかく文句のつけようも無いものをこの目で見た。
素晴らしかった。どうしてこんな素晴らしいものを見ることが出来てしまったのか、まだ理解しかねているところがある。
その位素晴らしかった。
国立競技場と、横浜アリーナ。
5年かけてこんなところに来てしまった。
正直に言う。アリーナが発表されたドームツアーのオーラスで、銀テープを握りしめて、私は「5万人でも7万人でもとびきり楽しませてくれるこの5人が、わざわざ今になってアリーナ?」と首を傾げてしまった。
それを賛辞する人たちに対して、御簾の向こうの存在として、その重さを背負う彼らの意義を否定していやしないかと考えてしまっていた。
それがどうだろうか、アリーナに行ってみて、世界が一変した。
確かに嵐は「そこにいた」。
今までだって――数えたら23回、アリーナは24回目の嵐――嵐のことはナマで見てきたけれど、対話できる存在、双方向性をもった存在としての嵐がそこにいた。
アリーナの嵐はそれまで自分が見てきた嵐と何もかもが違った。
もちろん、嵐は嵐だ。そこに変わりはない。
でも距離が近いと、ハコが狭いと受ける感覚としてこうも違うのか、とその差に愕然となった。
表情、動き、流れる汗だとか、吐息とか、マイクを通さずに聞こえてくる声だとか、その存在感。すべてがリアルなスケールのものとしてそこに立っていた。
それらは、自分にとってあまりにセンセーショナルだった。
5人が帰ると言ったアリーナに、「ただいま」をしたアリーナに私が行くのははじめてだから、「おかえり」なんて言えないのだろうと思っていたけれど、改めてアイドルの立つ本来の座に戻ってきた嵐に対して、全力で「おかえり」と言った。
席が近かったというのもこういう気持ちになった要因のひとつではあると思うけれど、それでも「アリーナ」という空間はあまりに格別だった。
不満の要素など出るはずがない。
このまま、何があっても5人についていこうと、心底思った。
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